【近代五種と馬術】
様々な意見が繰り広げられる中
オリンピック2020が閉会しました。
時差がないおかげで馬術競技は
馬場、障害、総合に加え
普段は馴染みのない近代五種の
馬術も見ることができました。
近代五種は全5種目を1日で行われる
そうですが、今回の大会では
1日目はフェンシング
2日目は水泳→馬術→レーザーラン
という内容で2日間に分けて開催されました。
近代五種の馬術はほかの馬術競技とは
異なり日頃から時間を共にしている
自馬との出場ではなく、抽選による
貸与馬で競うルールがあります。
そして、その馬とは競技20分前に
はじめて顔を合せます。
それはつまり、これから競技を共にする
初対面の馬と、たった20分間で
関係構築を求められることを意味します。
【東京五輪2020で起きたこと】
今大会の近代五種で、2種目を終えて
トップに立っていた選手の馬が
競技本番で何度も障害を拒否。
時間を消費して金メダルの可能性が遠のく中、
選手もコーチも馬に感情をぶつけてしまいました。
結果的にこの馬が飛越を続行することはなく
選手は馬術で失権となり、トータルで
順位を落として金メダルを手にすることは
できませんでした。
そしてこの時にコーチがとった態度が馬への
虐待とみなされ、コーチはオリンピック
開催中に出場資格を剥奪されました。
【動物の扱いと現行ルール】
近代五種は元々は5日間かけて
競うものだったようですが
オリンピック種目になったことや
放映の都合などで5種目を1日で
行うように改定されたそうです。
(東京五輪では2日間)
しかし5種目が立て続けに行われ
緊張状態が続く中で、選手はどこまで
気持ちを整えて馬と向き合うことが
できるのでしょう。
近代五種は、戦場で伝令を命じられた
将校が活躍する姿をスポーツ競技に
したもののようですから、戦場で馬を
選んだり練習する時間などないという
設定なのかもしれません。
もしもよい結果に繋がれば短時間で馬を
コントロールして勝利に結びついたことを
ドラマティックに賞賛されることになります。
しかし今回のようなことが起きてしまうと
それは馬の心身への影響だけでなく
世界中から厳しい目を向けられた選手も
心に傷を負ったことでしょう。
競技終了後も各国のメディアで取り上げられ
選手とコーチは後日、自国の動物福祉団体から
動物虐待で訴えられることとなってしまいました。
【競技のあり方と今後】
この競技が誕生した100年以上前とは
人と動物との関わりも変化し、動物福祉や
動物愛護という言葉もすでに新しいものでは
なくなりました。
競技に対する考え方やルールも時代と共に
見直されることが望ましいですし、
目の前にいる人間の精神状態を
ミラーリングすると言われる馬との競技を
現行ルールの忙しない流れの中に
組み込むことが最善の方法なのかを
競技のあり方と共に再考する必要を感じました。
今回の出来事はオリンピックという
世界中が注目する舞台で起きたわけですが
もしこれが、たとえば国内の地区予選で
起きていたら、はたしてこれほどの
議論に発展したでしょうか。
SNSでは二人への厳しい意見が相次ぎ
海外の著名人もコメントを発信するなど
さまざまな意見がいまだに見られ
この出来事の影響力を感じますが
この大舞台で起きたことの必然性を鑑みて
選手の技術や特定の誰かを責めるのではなく
この議論の熱が近代五種での馬術のあり方や
根本的なルールの見直し・改革といった
再考のエネルギーとなっていくことを
心から願っています。